ホーリーの鮮やかな色が街を包んだあと、インドにはもうひとつの春の行事がやってきます。
その名は、チャイトラ・ナヴラートリ。
「ナヴ(9)」「ラートリ(夜)」という名前のとおり、9日間にわたって行われる女神の祭りです。 色をかけあうホーリーとは少し違い、こちらはもっと静かで、家の中や心の内側を整えるような時間。
春分を過ぎ、新しい年のはじまりと重なるこの季節に、人々は女神の力を讃えながら、自分自身も整え直していく。 派手な祝祭というより、ゆっくりと芽吹きを迎えるための9日間です。
今回は、チャイトラ・ナヴラートリとはどんな行事なのか、何をするのか、そして日本に暮らす私たちがどう受け取れるのかを、やさしく整理してみます。
🌺 チャイトラ・ナヴラートリって何?
チャイトラ・ナヴラートリは、ヒンドゥー暦のチャイトラ月(春のはじまりの月)に行われる、9日間の女神の祭りです。
「ナヴラートリ」はサンスクリット語で「9つの夜」という意味。年に数回行われるナヴラートリの中でも、この春のナヴラートリは、新しい季節の始まりと重なる特別なタイミングにあたります。
この9日間で礼拝されるのは、ドゥルガー、ラクシュミー、サラスワティといった女神たち。 破壊と再生、豊かさ、知恵――それぞれ異なる側面をもつ神性が、日ごとに讃えられていきます。
ホーリーが色と笑顔で春を迎える祝祭だとしたら、チャイトラ・ナヴラートリは静かに整えながら春を迎える時間。 にぎやかさよりも、祈りや節制、そして内側の再調整に重きが置かれる行事です。
🗓️ いつ行われる行事?
チャイトラ・ナヴラートリは、
ヒンドゥー暦のチャイトラ月の新月の翌日から9日間行われます。
だいたい3月下旬〜4月上旬にあたることが多く、
年によって日付は毎回変わります。
インドの多くの地域では、
この時期は新年のはじまりとも重なります。
たとえば──
- 北インドではヴィクラム暦の新年
- マハーラーシュトラではグディ・パドワ
- 南インドではウガディ
など、
「春の新しい周期のスタート」として祝われる地域も少なくありません。
だからチャイトラ・ナヴラートリは、
単なる女神のお祭りというよりも、
🌱 “春のはじまりに、内側を整える9日間”
という位置づけになります。
冬の重たさが抜けきらず、
でも春の光は確実に強くなってきているこの時期。
自然のリズムが切り替わるタイミングに、
女神の力を迎える──
そんな季節行事なんです。
👑 女神ドゥルガーと9つの姿
チャイトラ・ナヴラートリで中心となるのは、女神ドゥルガーです。
ドゥルガーは、悪魔を打ち倒すために現れた戦う女神。
虎や獅子に乗り、いくつもの武器を持つ姿で描かれることが多いです。
でも、その姿は「怖い存在」というよりも、
大切なものを守るための強さを象徴しています。
🐅 ドゥルガーとはどんな女神?
ヒンドゥー教では、宇宙を動かす根源的なエネルギーを「シャクティ(女性原理)」と呼びます。
ドゥルガーは、そのシャクティが具体的な形をとった存在とも言われています。
また、ドゥルガーはシヴァ神の妃であるパールヴァティーの力強い側面とも考えられており、
優しさと強さの両方をあわせ持つ女神です。
🌸 ナヴドゥルガー(9つの姿)
ナヴラートリ(9つの夜)のあいだ、
ドゥルガーは9つの異なる姿として礼拝されます。
それぞれが別の女神というより、
同じ存在の異なる側面と考えるとわかりやすいかもしれません。
① シャイラプトリー
山の娘。自然とつながる、はじまりの姿。
② ブラフマチャーリニー
修行する女神。意志と献身を象徴します。
③ チャンドラガンタ
三日月を額に持つ姿。勇敢さの象徴。
④ クシュマンダ
宇宙を創造したとされる姿。生命力のエネルギー。
⑤ スカンダマータ
子を抱く母の姿。守護と慈愛。
⑥ カーティヤーニー
戦いの女神としての側面。正義を貫く力。
⑦ カーララートリー
闇をまとう姿。恐れを超える象徴。
⑧ マハーガウリー
純白の姿。浄化と再生。
⑨ シッディダートリー
完成と達成の女神。力の最終形。
🌼 地域によっては別の女神を礼拝することも
ただし、インドはとても広く、信仰の形も地域ごとに違います。
ナヴラートリでは、
ドゥルガー・ラクシュミー・サラスヴァティーという三女神(トリデヴィ)を順に礼拝する地域もあります。
力(ドゥルガー)、繁栄(ラクシュミー)、知恵(サラスヴァティー)。
女性エネルギーの異なる側面を9日間で辿る、という捉え方もできるのです。
☘️ なぜ「春」に行われるのか
チャイトラ・ナヴラートリは、春に行われます。
ヒンドゥー暦の最初の月「チャイトラ」は、新しい年の始まりとされることもあります。
つまりこの祭りは、単なる季節行事ではなく、再出発のタイミングでもあるのです。
春は、インドでも日本でも、
寒さがゆるみ、風が変わり、空気が動きはじめる季節。
農耕文化の中では、種まきや新しい循環の準備の時期でもあります。
だからこそ、「力の女神」を祈る時間が、この季節に置かれているのかもしれません。
また、ヒンドゥー思想では、
宇宙も人も、常に「生成・維持・破壊」の循環の中にあると考えられます。
冬の停滞が終わり、再び動き出す春は、
内側のエネルギーを整え直すのにふさわしい時期。
ナヴラートリで女神のさまざまな側面を礼拝するのは、
外の季節が変わるときに、自分の内側の力も整え直すという意味合いを持っています。
花が咲く前には、静かな準備がある。
チャイトラ・ナヴラートリは、その準備の9日間なのかもしれません。
「正解はひとつではない」。
それもまた、ヒンドゥー教らしい世界観なのかもしれません。
🪔 この9日間、何をするのか?
チャイトラ・ナヴラートリは「9つの夜」を静かに重ねていく行事です。
地域や家庭によって細かな違いはありますが、共通しているのは、毎日祈りを重ねること、そして身体と心を整えること。
ここでは、一般的によく見られる過ごし方を紹介します。
🌙 毎日の礼拝(プージャー)
家庭の祭壇や寺院で、女神に花や果物を供え、祈りを捧げます。
特別な供物を用意する家もあれば、シンプルに灯りと花だけ、ということもあります。大切なのは豪華さではなく、9日間続けることです。
🥛 断食・食事制限
ナヴラートリ期間中は、肉やアルコールを控えたり、穀物を避けたりする人もいます。
厳格な断食をする人もいれば、軽く整える程度の人もいます。これは身体を軽くし、心を澄ませるための習慣です。
🧹 家を整える
春の始まりに合わせて、家を掃除し、祭壇を飾り直します。
新しい布を敷いたり、花を飾ったり。空間を整えることも礼拝の一部と考えられています。
👧 少女への敬意(クマリ・プージャー)
特に8日目や9日目には、幼い少女を女神の化身として迎え、食事をふるまう風習もあります。
これは女性性や生命力への敬意を表す、大切な行為です。
🎶 地域によってはダンスや集まりも
春のナヴラートリは、秋ほど大規模ではありませんが、地域によっては音楽や踊りで祝うこともあります。
静かに過ごす家庭もあれば、賑やかに集まる地域もある。「正解」はひとつではありません。
🌱 今の暮らしで、どう受け取ればいい?
インドの行事と聞くと、どこか遠い世界の出来事のように感じてしまいますよね。 けれどチャイトラ・ナヴラートリは、派手なお祭りというよりも、季節の切り替わりに自分を整える時間という側面が強い行事です。
だからこそ、日本に暮らす私たちにとっても、そっと取り入れられるヒントがたくさんあります。
🇯🇵 日本に住む私たち向けの受け取り方
すべてを真似する必要はありません。 断食を完璧に行うことも、毎日祈りを捧げることも、必須ではありません。
大切なのは、「切り替える時間を持つ」という感覚。
・少し食事を軽くしてみる
・部屋を整える
・新しい季節に向けて気持ちをリセットする
・余計なものを手放してみる
春の始まりに、自分の内側を静かに整える期間として受け取る。 それだけでも、十分に意味があるのではないでしょうか。
🌤️ 3月という季節との相性
日本の3月下旬から4月上旬は、冬の冷えが残りながらも、日中は一気に暖かくなる不安定な時期です。 花粉や強い風、だるさを感じやすい季節でもありますよね。
アーユルヴェーダでは、この時期は「カパ(重さ・湿り気)」が増えやすい季節とされます。 体が重く感じたり、むくみやすかったり、気持ちが停滞しやすいのもその影響だと考えられています。
だからこそ、少し軽くする。少し動かす。少し整える。 チャイトラ・ナヴラートリの「食を控える」「内側を見つめる」という習慣は、日本の春にも不思議とよく合います。
🧘 チャイトラ・ナヴラートリならではの過ごし方
この9日間は、女神のエネルギーに意識を向ける期間とされています。 破壊や再生、守護や豊かさといった側面を持つ女神の姿に触れながら、自分の中の「手放したいもの」と「育てたいもの」を見つめ直す時間です。
・夜を静かに過ごす
・甘いものや重い食事を少し控えてみる
・白や赤など、象徴的な色を取り入れてみる
・祈りや瞑想の時間を数分だけ作る
何かを足すというより、少し削ぎ落とす。 春の始まりに、自分を軽くするための9日間。 それが、チャイトラ・ナヴラートリのやわらかな受け取り方かもしれません。
🧺 チャイトラ・ナヴラートリに寄り添う、かいらりのアイテムたち
チャイトラ・ナヴラートリは、派手に盛り上がるお祭りというよりも、静かに整える9日間。 少し軽くして、少し見つめて、少しだけ前を向く。
そんな時間に、そっと寄り添うものを選ぶとしたら──
かいらりからは、こんな3つをおすすめしたいです。
🌿 春の重さを抜く|カパケアのハーブティー
3月下旬から4月にかけては、アーユルヴェーダではカパが高まりやすい季節。
眠い、だるい、なんとなく重い……そんな感覚が出やすい時期でもあります。
ナヴラートリは、軽めの食事や断食を取り入れる人も多い行事。
だからこそ、温かいハーブティーで巡りを促し、内側を軽くする時間をつくるのは、とても相性がいいのです。
春のぼんやりを、そっとほどく一杯。
派手ではないけれど、ちゃんと整う感覚を支えてくれます。
💄 血色を取り戻す|ビーツのリップバーム
春は“再始動”の季節。
女神ドゥルガーのイメージカラーでもある赤は、生命力やエネルギーの象徴でもあります。
ビーツを使ったリップバームは、ほんのりとした血色を与えてくれるアイテム。
断食や軽食を取り入れる期間は、顔色が少し落ちやすいこともありますよね。
鏡を見たときに、「ちゃんと私、戻ってきてるな」と思える色。
それはきっと、外に向かうための小さなスイッチになります。
💎 自分を見つめる時間に|カーネリアンとグリーンアベンチュリン
ナヴラートリは、外へ広がるよりも、内側へ向かう時間。
だからこそ、石をひとつ手元に置くのもおすすめです。
カーネリアンは、再び動き出すためのエネルギーを象徴する石。
停滞から抜けて、「私は進む」と決めたいときに。
グリーンアベンチュリンは、焦らず整える石。
春の芽吹きのように、穏やかに、自分のペースで立ち上がるために。
どちらを選んでも正解はありません。
今の自分にしっくりくるほうを、そっと持ってみてください。
チャイトラ・ナヴラートリは、何かを派手に変える日ではなく、自分の軸を静かに戻す時間。
その時間に寄り添うものを、暮らしの中から選んでみてくださいね。
🌅 春を迎える、静かな9日間
チャイトラ・ナヴラートリは、にぎやかなフェスティバルというよりも、季節の切り替わりを、内側から整える9日間。
春分を越え、空気がゆるみ、身体も心も揺れやすくなる時期。
そんなときに「軽くする」「見つめる」「整える」という時間を持つことには、ちゃんと意味があります。
女神を讃える行事でありながら、実はとても個人的な時間でもあるナヴラートリ。
派手に何かを始めなくてもいい。
まずは、自分の呼吸を取り戻すことから。
日本に住む私たちにとっても、この季節は「新年度」「新生活」と重なる節目のタイミング。
外に向かうエネルギーが高まる前に、いったん内側を整えるという選択は、案外ちょうどいいのかもしれません。
温かいお茶を淹れること。
鏡の前で少しだけ色を足すこと。
石を手に取り、静かに目を閉じること。
そんな小さな行為の積み重ねが、春の始まりをやわらかくしてくれます。
チャイトラ・ナヴラートリ。
9日間の女神の時間を、どう受け取るかは自由です。
今年の春は、少しだけ立ち止まって、自分の内側から季節を迎えてみませんか。







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