インドの9月をたどる|神々と手仕事、内省が重なるお祭りカレンダー

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9月のインドでは、神々の誕生を祝う華やかなお祭りの一方で、自分自身を見つめ直したり、仕事や道具に感謝したり、祖先を想ったりする時間も流れています。

クリシュナの誕生を祝うジャンマシュタミに始まり、ジャイナ教で内省を大切にするパリユーシャン、そして象の頭を持つ神ガネーシャを迎えるガネーシャ・チャトゥルティー

さらに、職人やものづくりに関わる人々がヴィシュヴァカルマを敬う日や、月の終わりには祖先へ祈りを捧げる時期も始まります。

ひとつの月の中に、にぎやかな祝祭と静かな祈り、神々への信仰と日々の仕事が重なっているのが、9月のおもしろいところです。

今回は、そんな2026年9月のインドで行われる主なお祭りや行事を、日付順にたどっていきます。

なお、インドのお祭りにはヒンドゥー暦やジャイナ暦などをもとに日付が決まるものもあり、地域や宗派によって日程や祝い方が異なる場合があります。

前回の8月のお祭りカレンダーはこちら。

🌿 はじめに|9月のインドは、祝う時間と見つめ直す時間が交差する

9月のお祭りを並べてみると、インドで大切にされているものの幅広さがよく見えてきます。

神の誕生を大勢で祝う日がある一方で、自分の行いを振り返る期間があり、仕事や道具に祈りを捧げる日があり、さらに祖先を想う時間へと続いていきます。

どれも同じ「お祭り」という言葉で紹介されることがありますが、その過ごし方はさまざま。音楽や飾りで街がにぎわうものもあれば、祈りや断食などを通して静かに過ごす行事もあります。

また、インドの年中行事の多くは、私たちが普段使っている西暦だけで日付が決まっているわけではありません。ヒンドゥー暦やジャイナ教の暦など、それぞれの伝統に基づいて日程が決まるため、同じお祭りでも西暦上の日付は毎年変わります。

さらに、広いインドでは地域や宗派によって祝い方や重視される行事も異なります。

「9月のインドでは、みんなが同じお祭りを祝っている」と見るのではなく、それぞれの土地や信仰の中に異なる時間が流れていると考えると、インドのお祭りがぐっと立体的に見えてきます。

まずは、クリシュナの誕生を祝う9月最初の大きなお祭り、クリシュナ・ジャンマシュタミから見ていきましょう🪈

🪈 9月4日|クリシュナ・ジャンマシュタミ(Krishna Janmashtami)

9月最初の大きなお祭りが、クリシュナ・ジャンマシュタミです。

ジャンマシュタミは、ヴィシュヌの化身として信仰されるクリシュナの誕生を祝うヒンドゥー教のお祭り。2026年は9月4日にあたります。

クリシュナは深夜に生まれたと伝えられているため、この日は夜遅くまで祈りやバジャンと呼ばれる信仰歌が続き、誕生の時刻を迎える深夜に特別な祈りが行われます。

寺院では花や灯りで飾りつけが行われ、幼いクリシュナの像を沐浴させたり、美しい衣装を着せて揺りかごに置いたりすることも。断食をしながらクリシュナの誕生を待ち、深夜の祈りを終えてから食事をとる人々もいます。

クリシュナは神として敬われる一方で、幼いころのいたずら好きな姿を描いた物語も数多く親しまれています。

🥛 翌日は「バター泥棒」クリシュナを楽しむダヒ・ハンディ

ジャンマシュタミとあわせて知られているのが、翌日に行われるダヒ・ハンディ(Dahi Handi)です。

幼いクリシュナは乳製品、とりわけバターが大好きで、家に吊るされた壺から仲間たちとバターを取ったという物語で親しまれています。

ダヒ・ハンディでは、この物語になぞらえて壺を高い場所に吊るし、人々が人間ピラミッドをつくって壺を割るという、とてもにぎやかな行事が行われます。

神の誕生を深夜まで祈りながら待つ時間と、翌日に街で繰り広げられる活気ある行事。同じクリシュナを祝う祭りの中に、信仰の静けさと、物語をみんなで楽しむにぎやかさの両方があるのもジャンマシュタミのおもしろさです。

🕊️ 9月8日〜15日|パリユーシャン(Paryushan)

ジャンマシュタミのにぎやかな祝祭から数日後、ジャイナ教ではパリユーシャンと呼ばれる大切な期間が始まります。

2026年、シュヴェーターンバラ派では9月8日から15日までの8日間。華やかに神の誕生を祝うお祭りとは少し違い、自分自身の行いや心を見つめ直すための時間として大切にされています。

期間中は、祈りや聖典の学び、プラティクラマンと呼ばれる反省と悔い改めの実践などが行われます。断食をしたり、食事を控えたりしながら、普段よりも宗教的な実践に時間を向ける人もいます。

ジャイナ教で大切にされている非暴力や自制、他者への慈しみを、日々の行いの中でもう一度見つめ直していく期間ともいえるでしょう。

🙏 最終日のサンヴァツァリ|「赦すこと、赦しを求めること」

パリユーシャンの中でも特に大切なのが、最終日のサンヴァツァリ(Samvatsari)です。2026年は9月15日にあたります。

この日は一年の自分の行いを振り返り、知らず知らずのうちに傷つけてしまったことも含めて、互いに赦しを求めます。

そこで交わされる言葉のひとつが、「ミッチャーミ・ドゥッカダム(Micchami Dukkadam)」。自分が相手に与えてしまった苦しみや過ちについて赦しを求める言葉として使われます。

誰かを盛大に祝うのではなく、一度立ち止まり、自分と他者との関係を見つめ直す。そんな静かな時間もまた、インドで受け継がれている大切な祭りの姿です。

なお、ジャイナ教でも宗派によって行事の期間や実践には違いがあります。ディガンバラ派では、この時期にダス・ラクシャナと呼ばれる10日間の祭礼が行われます。

そして9月半ばになると、街の空気は再び大きな祝祭へ。次に迎えるのは、インドでも広く親しまれている象頭の神ガネーシャです🐘

そして数日後には、こうした華やかな祝祭とはまた違う、静かに自分自身と向き合う時間が始まります🕊️

🐘 9月14日|ガネーシャ・チャトゥルティー(Ganesh Chaturthi)

9月14日は、象の頭を持つ神ガネーシャの誕生を祝う「ガネーシャ・チャトゥルティー」です。

ガネーシャは、知恵や学びと結びつき、物事を始めるときにも祈りを捧げられる神。インド各地で信仰されていますが、ガネーシャ・チャトゥルティーは特にマハーラーシュトラ州で大きく祝われます。

祭りが始まると、家庭や地域ごとに作られたパンダルと呼ばれる仮設の祭壇などにガネーシャ像を迎えます。

花や飾りで囲まれたガネーシャの前では、祈りやアールティーが行われ、家族や地域の人々が集まって祭りの時間を過ごします。

🥟 ガネーシャに捧げる甘いお菓子「モーダカ」

ガネーシャ・チャトゥルティーを語るうえで欠かせないもののひとつが、モーダカ(Modak)です。

モーダカはガネーシャが好むお菓子として親しまれており、祭りの供物としてもよく登場します。

マハーラーシュトラ州で親しまれているウカディチェ・モーダカは、米粉の生地でココナッツやジャガリーを使った甘い具を包み、蒸して作るものです。

神を迎え、花を飾り、食べ物を供え、家族や地域の人たちと祈る。ガネーシャ・チャトゥルティーには、神話の中の神を祝うだけではなく、神を暮らしの中へ迎えるような親しさも感じられます。

そして、この日に迎えられたガネーシャとは、祭りの終わりにもう一度大きな節目を迎えます。9月25日のガネーシャ・ヴィサルジャンについては、後ほど詳しく見ていきましょう。

🗣️ 9月14日|ヒンディー・ディワス(Hindi Diwas)

9月14日は、インドでヒンディー・ディワス(Hindi Diwas/ヒンディー語の日)として知られる日です。

宗教的なお祭りではなく、インドで使われる言葉のひとつ、ヒンディー語に目を向ける記念日です。

その由来は1949年9月14日。インドの制憲議会で、デーヴァナーガリー文字で書かれるヒンディー語が、連邦の公用語として採択された日にさかのぼります。

現在もこの日には、政府機関などでヒンディー語に関する行事が行われています。2026年には、9月14日と15日にムンバイでヒンディー・ディワスの式典と全インド公用語会議が予定されています。

🇮🇳 ヒンディー語は「インドの国語」ではない?

ここで少しややこしいのが、ヒンディー語をそのまま「インドの国語」と考えるのは正確ではないということです。

インド憲法では、ヒンディー語は連邦の公用語として定められています。一方で、中央政府の公務では英語も使われ続けており、さらに各州ではそれぞれの地域で使われる言語が公用語として採用されています。

北インドで広く話されるヒンディー語がある一方、ベンガル語、マラヤーラム語、タミル語、テルグ語など、地域によって日常の言葉は大きく変わります。

ヒンディー・ディワスはひとつの言語を祝う日であると同時に、「インドでは何語が話されているのだろう?」と、多言語国家インドの姿に目を向けるきっかけにもなる日です。

🛠️ 9月17日|ヴィシュヴァカルマ・プージャー(Vishwakarma Puja)

9月17日は、ものづくりに関わる人々にとって少し特別な日。ヴィシュヴァカルマ・プージャーが行われます。

ヴィシュヴァカルマは、ヒンドゥー教の神話で神々の建築やものづくりに関わる存在として語られる神です。

そのため、この日は職人や工芸に携わる人々をはじめ、工場や工房、技術に関わる仕事をする人々がヴィシュヴァカルマに祈りを捧げます。

🔨 人だけでなく、仕事を支える「道具」にも祈る

ヴィシュヴァカルマ・プージャーのおもしろいところは、ものをつくる人だけではなく、その仕事を支えている道具や機械も大切に扱われることです。

工房や工場では、普段使っている道具や機械をきれいにし、花などで飾って祈りを捧げる姿が見られます。

木を削る道具、金属を加工する道具、織物をつくる機械。形は違っても、日々の仕事は人の技術だけで成り立っているわけではありません。

自分の手と、その手を助けてくれる道具の両方を大切にする。そんなヴィシュヴァカルマ・プージャーの姿は、インドの手仕事を見ていると、とても身近に感じられます。

かいらりで扱っているインドの布や雑貨にも、人の手と道具を使って生み出されてきたものがたくさんあります。完成したものだけを見るのではなく、その向こうにある「つくる時間」や「つくるための道具」に目を向けてみると、手仕事の見え方も少し変わってきそうです。

神々への祈りと、毎日の仕事が自然につながっているヴィシュヴァカルマ・プージャー。9月のお祭りの中でも、インドの暮らしとものづくりの関係がよく見える一日です。

そして9月の終盤には、14日に迎えたガネーシャを送り出す日がやってきます🌊

🌊 9月25日|ガネーシャ・ヴィサルジャン(Ganesh Visarjan)

9月14日のガネーシャ・チャトゥルティーで迎えられたガネーシャ。その祝祭の大きな締めくくりとなるのが、ガネーシャ・ヴィサルジャンです。

「ヴィサルジャン」は、祀っていたガネーシャ像を水へ送り出す儀式。2026年は9月25日のアナント・チャトゥルダシーに、大きなヴィサルジャンが行われます。

特にムンバイなどでは、ガネーシャ像を乗せた行列が街を進み、音楽や太鼓、掛け声に包まれながら海や川などへ向かいます。

🌺 「さようなら」ではなく、また来年迎えるための別れ

水辺へ着くと、ガネーシャ像は祈りとともに水へと浸されます。

祭りのあいだ家や街に迎えていた神を送り出すため、どこか寂しさを感じる場面でもありますが、この別れはそれきりのものではありません。

ヴィサルジャンでは、「また来年戻ってきてください」という思いを込めてガネーシャを見送ります。

迎えるところから始まり、ともに過ごし、最後には送り出す。ガネーシャ・チャトゥルティーは、一日だけのお祝いではなく、神を暮らしの中へ迎えてから別れを告げるまでがひとつの大きな流れになっています。

また、ガネーシャ像を水に流すことによる環境への影響を減らすため、近年では自然に還りやすい素材の像を使うなど、環境に配慮した取り組みも広がっています。

にぎやかな行列とともにガネーシャを送り出したあと、9月の終わりには、今度は祖先へと静かに心を向ける時間が訪れます🪔

🪔 9月26〜27日ごろから|ピトリ・パクシャ(Pitru Paksha)

にぎやかなガネーシャの祝祭が終わるころ、9月のインドでは再び静かな祈りの時間へと移っていきます。

ピトリ・パクシャは、亡くなった祖先を想い、感謝や祈りを捧げるための期間です。

2026年は9月26日にプールニマ・シュラッダが行われ、翌27日のプラティパダー・シュラッダから、祖先に祈りを捧げる日々が続いていきます。

この期間には、祖先のために行うシュラッダ(Shraddha)をはじめ、水を捧げるタルパンや、供物を捧げるピンダ・ダーンなどの儀礼が行われます。

🌾 神々だけではなく、祖先にも祈る時間

インドのお祭りというと、色鮮やかな飾りや神像、音楽に包まれた祝祭を思い浮かべるかもしれません。

けれども一年の暦をたどっていくと、神々を祝う日だけではなく、自分より前に生きた人たちへ心を向ける時間も大切にされていることがわかります。

家族の記憶をたどり、食べ物や水を供え、祈りを捧げる。ピトリ・パクシャは、今を生きる家族と祖先とのつながりを見つめる期間でもあります。

祖先供養で特に知られている場所のひとつが、ビハール州のガヤーです。ピトリ・パクシャの時期には各地から人々が訪れ、祖先のためにピンダ・ダーンなどの儀礼を行います。

2026年のシュラッダは9月末から10月へと続き、10月10日のサルヴァ・ピトリ・アマーヴァスヤーが大きな締めくくりとなります。

神の誕生を祝う日、職人と道具に祈る日、そして祖先を想う日。9月の暦をひと月たどるだけでも、インドの祈りが神々だけではなく、仕事や家族、過去から受け継いだつながりにも向けられていることが見えてきます。

🌿 おわりに|祝祭と内省、手仕事が重なる9月

2026年9月のインドのお祭りをたどってみると、ひと月の中に実にさまざまな祈りのかたちがあることが見えてきました。

クリシュナの誕生を祝うジャンマシュタミでは、深夜の祈りとにぎやかなダヒ・ハンディ。ガネーシャ・チャトゥルティーでは、神を暮らしの中へ迎え、最後にはヴィサルジャンで送り出します。

その一方で、パリユーシャンでは自分自身の行いを静かに振り返り、ピトリ・パクシャでは祖先へ心を向けます。

そしてヴィシュヴァカルマ・プージャーでは、ものをつくる人だけではなく、その仕事を支えている道具や機械にも祈りが捧げられます。

神々を祝うこと、自分を見つめ直すこと、仕事を大切にすること、祖先を想うこと。

一見すると別々の行事ですが、どれも日々の暮らしの中にある大切なものへ、あらためて意識を向ける時間なのかもしれません。

「インドのお祭り」と聞くと、色鮮やかでにぎやかな光景がまず浮かびます。でも暦をひと月ずつたどっていくと、その奥には静かな祈りや家族とのつながり、仕事への感謝といった、さまざまな暮らしの姿があります。

そんな違いにも目を向けながらお祭りを知っていくと、「インド文化」というひとつの言葉だけでは収まりきらない、この国の多様さが少しずつ見えてきます。

次の10月には、また違った神々や祈りの季節が続いていきます。来月のお祭りカレンダーも、どうぞお楽しみに🌿

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